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むきだしの大地

掘り起こされた泣きっ面

丘に登って見晴らせば

野焼きの煙あり

風が刈草の匂い裂く

人々は咳き込み

 

泣きっ面に唾を吐く

 

 

泣きっ面という言葉と展示した絵に関わること

 

広い広い風景の中に

大地がざらざらと赤く

名のあるなし区別なく記憶とか 脈絡のあるなし区別なくイメージが埋まっている 石みたいなものたちだ

人々は景色を吸い込み大地を耕し

宝石、石ころ関係なしに踏みつけ

展開を盲信して森を焼きはらうことをいとわず

大地を土地にして名前をつけてかわいがり

祝いのため呪いのため唾を吐く

 

掘り起こされた石たちのようなものは眩しさのために泣きっ面で、光と影を従え

石たちのようなものを人々は愛でたり砕いたり埋めたりしている

変な名前をつけたり、きれいな名前をつけたり、名づけないまま水底に投げ込んでみたり

突拍子もない巨石があれば大昔に向こうの山の鬼が投げたんだよなんておもしろい話を作ってみたり、おそれかしこまってみたりするけど森を燃やすどさくさにまぎれ微塵に砕いて売りさばいたりもする

 

絵に対する私は唾を吐く

夕暮れ時ふいに口に入った虫を勢いよく吐き出す時の

爽快な野蛮さだ

そんな卑俗な粘液は色彩の中に川と流れる涙と明るく波立つ

私が混乱するのは

絵は描かれるものだという根暗な事実で

とらわれた心にとらわれる私と広大な絵の関係を考えると気が遠くなるくらいこんがらかって酔っ払って眠るしか仕方ない

私は並べた石を眺めるが 様々な風景がまじってざわついている

海やら山やらで拾ってきた石たちは

何も答えないのだから

セブンシスターズの岩壁を小さくしたキャンバスに絵を描く

石に何を求めるっていうんだ

石に強要すれば割れるだけだろう 

絵も割れてしまうだろう

色やイメージを絵の中から掘り起こして愛でたり砕いたり埋めたりしている

赤鉄鉱そっくりに年老いた絵具チューブは口を覗きこまないと何色かわからない そんなことをもう何年も続けていて改善できない

化石化した筆をテレピンで叩きおこす

私はどちら側にいるのかわからなくなる

もちろん私は絵の前にいる

そうとちゃって

 

ミネラルに語りかけるような愚かな気持ち

岩壁からしたたる滴を涙に例えるご都合主義な気持ち

イメージを心と混同する無力な気持ちと葛藤する

涙を

土を削り取りながら野蛮な力の塊が流れている川として

瞳は水底に沈み 瞳は影を量産する

名をつけようもない大気は時に輝き

名をつけようもない大地は名を拒む石たちをかくまい

掘り起こされた泣きっ面は眩しさからの涙とむじゃきな唾により艶めき、瞬時に乾いて石となる

掘り起こされたばかりの湿った石のような絵を描こうとしたと思うけれど

絵に言葉は添わないから間違いかもしれない

何も描けそうになかったということと紙一重で絵はあるように思う

弱い魂が薄ら笑いを浮かべて「虚しい熱狂の幻影の去り際の後ろ姿を見たかもしれない」と言うくらいの不確かな話だ

絵の名前は石や地形や小説や作家やらから借りた

ギュンターグラスはある絵が描き上がってみたらグラスにそっくりだと思ったからそう名づけた グラスは多分すごい作家だからグラスの小さな瞳を借りた

ミーチャはアメリカに行ったかもしれない

真っ赤な顔をして 世界は相対的なんだとぶつくさ言いながら

ミーチャの真っ赤な顔を借りた

普洱茶の沈んだ灰茶色を借りた

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